本調査は2006-2007,2009-2010年度には 九州大学教育研究プログラム・研究拠点プロジェクトの,また2012年度は九州大学基幹教育院の全学教育経費の援助を受けて実施されました.
九州大学大学院数理学研究院は,九州大学における数学教育の責任部局として, いわゆる学力低下に対応するための基礎データ取得を目的とし, 4月最初の授業の週に理系新入生を対象に数学基礎学力調査を行ってきました. 2011年4月に,数学の責任部局として新しく「マス・フォア・インダストリ研究所」(IMI)が開設されましたので, それ以来,数理学研究院とIMI共同で調査を実施しています. 調査は2003年度から毎年同じ問題を使い,基本的に理系全学科を対象とし,複数のクラスがある学科はそのうち一クラスを選んで行っています. 本年度は10回目の調査で,調査対象者は1123名でした.本調査は規模・期間共に日本ではあまり例のない定点観測で, 2012年2月に公表された日本数学会による学力調査とは相補的な役割を担うものと考えております.
調査問題は高校教科書の「問」レベルで,高校数学の基本が正しく身につき正確に運用できるかを見ています. 満点でも当たり前,ミスをしても8割は正答して欲しいレベルで, 正答率6割以下では高校数学の基本事項の習得が不十分と見なしてよいと考えております.
この調査には,とかく個人的な思い入れや根拠のない希望的観測, イデオロギーなどで迷走しがちな教育論議に明確な基本線を与えるという効果があり, 九州大学における数学教育の質の向上にも役に立っています. また,理学部数学科でのカリキュラム改革や入試での選考方針の議論の際に基本データとして用いられています.
この調査の一つの特徴は速報性です.調査結果を実際の授業計画に役立ててもらうため, 調査を行った週の週末に採点・集計作業を行い,即座にデータを数学担当教員に周知しています. また,A4用紙1枚の「速報」を作成して4月中に九州大学の執行部や全学教務委員会委員に配布し, 入学者の現状を把握するための参考資料としていただいています.今年度は4月9日(月)から4月13日(金)の間に調査を実施し, 4月14日(土)・4月15日(日)に大学院生のアルバイトに協力してもらって採点・集計作業を行いました.
2011年3月に,2003年から2010年までの調査結果をまとめた報告書(約180ページ)が作成されています. ご希望の方には郵送致しますので,下記アドレスまでメールにてご連絡下さい.
また,2010年には岩波書店から刊行されている「科学」11月号に報告記事が掲載されました.是非一度ご覧下さい.
梶原健司,「大学新入生の数学の学力ー九州大学新入生数学基礎学力調査の結果より」,科学 80(8)(2010) pp.1134-1137
(別刷りをこちらからダウンロードできます.ただし,以下の資料と同じID,パスワードが必要です.)
以下は今年度までのデータです. ダウンロードにはIDとパスワードが必要です.資料閲覧ご希望の方は梶原健司(九州大学マス・フォア・インダストリ研究所)
kaji_AT_imi.kyushu-u.ac.jp
までご連絡下さい.個別に対応させていただきます.
なお,本調査は10回目の今年をもって一度終了し,調査問題も公開した上で, これまでの結果を社会に問いたいと思います. 長期にわたって調査にご協力いただいた九州大学の数学担当教員,事務担当者,また,さまざまな形でご支援いただいた全ての皆様に, 心より御礼申し上げます.ありがとうございました.